協会長 小野 直樹
協会長 小野 直樹
このたびの理事会におきまして、関根会長の後を受けて、セメント協会長に就任することとなりました三菱マテリアルの小野でございます。どうぞよろしくお願い申し上げます。
皆様にはセメント産業に対し、日頃よりご支援ご協力を賜り、心よりお礼申し上げます。会長就任にあたり、一言ご挨拶申し上げます。
まず、今般の新型コロナウイルス感染症の拡大により、尊い命を落とされた方々に謹んで哀悼の意を表しますとともに、感染された方々やそのご家族、また、不安のなかにいらっしゃる全ての方々に対して、心からお見舞い申し上げます。私ども協会会員各社におきましても、政府、地方自治体からの指示、要請を踏まえ、健康状態に応じた出勤管理、ソーシャルディスタンスの確保、オンライン会議の推進、テレワークの活用等の感染拡大防止策の徹底を図っているところでございます。
この国難ともいえる状況におきまして、私どもセメント産業としては、命と財産を守るインフラ構造物に必須となるコンクリート基礎素材の供給と廃棄物の原燃料化や災害廃棄物の処理による循環型社会の維持等が社会的使命であると考えており、業界を挙げてその責務を果たしてまいる所存です。
さて、セメント業界として取り組むべき課題につきましては、基本的には従来と変わらないものと認識しております。すなわち、業界共通の課題は、①安全管理を徹底し、インフラの基礎であるセメントの安定供給に万全を期すること、②新たな需要開拓、③持続可能な社会構築への貢献に向けた対応、④セメント産業への理解を深めること、の4点と考えており、これまでの取り組みを今後さらに強化していきたいと考えております。
2019年度のセメントの国内需要は、オリンピック・パラリンピック関連工事の終了、自然災害の多発や人手不足による工期の長期化等の影響を受け、約4,100万トンと前年実績を3.8%下回り、53年ぶりの低水準となりました。2020年度は災害の復旧・復興工事の進展、国土強靱化対策の本格化やリニア中央新幹線関連工事、2025年大阪万博関連工事等の大型プロジェクトが予定され、底堅い需要は見込まれるものの、慢性化する建設現場の人手不足等の影響により、2019年度と同程度の水準にとどまると見込んでおります。さらに、世界的な流行が続く新型コロナウイルス感染症の収束の見通しが立っていないことから今後様々な分野で深刻な影響が懸念されること、またオリンピック・パラリンピック延期の影響も予想できないことから、先行き不透明な状況となっております。
セメント協会としましては、このような状況下においても安全操業と関係者の健康に改めて万全を期すべく、業界を挙げて供給体制を総点検しセメントの安定供給に取り組んでいくべきことを確認したいと考えております。
セメント協会は、セメント・コンクリートの新たな需要開拓を図るため、コンクリート舗装の普及促進活動にも積極的に取り組んでおります。最近では、人口減少に伴う労働力の不足、環境負荷の軽減、社会資本コストの上昇抑制といった社会・経済ニーズの変化により、コンクリート舗装の持つ長寿命や環境面等の優位性が再評価されるようになりました。国土交通省を始めNEXCO各社での採用実績も増えており、引続きコンクリート舗装のさらなる長寿命化・技術向上への取り組みを行うとともに、関係機関と連携し、より魅力的なコンクリート舗装を提案していきたいと考えております。
また、防災・減災対策等において地盤改良工事は必須であり、軟弱地盤等の液状化対策を含め、セメント系固化材の果たす役割がますます大きくなっており、徐々に需要が拡大してきました。今後ともセメント系固化材による地盤改良がより効果的に活用されるよう、セメント系固化材の認知度の向上や理解の促進に努めることが重要であると考えております。
セメント産業は、社会・防災インフラ等の整備に不可欠なコンクリートの基礎素材の供給を通じて大きな役割を果たすとともに、その生産にあたっては、石炭以外は主原料たる石灰石をはじめとしてほとんど国産資源のみを用いており、北海道から沖縄に至るまで全国30工場において、雇用と地域経済の発展に貢献しています。また、多様な廃棄物や副産物を生産原料や熱エネルギーの代替として受入れ、セメントに生まれ変わらせて、かつ二次廃棄物を出さないという究極の環境産業でもあり、我が国の市民生活や経済活動をしっかりと支え、循環型社会の構築に大きく貢献しています。加えて、災害廃棄物処理に関しては、セメント協会として、2015年9月に環境省が立ち上げた「災害廃棄物処理支援ネットワーク」に参画し、地震や台風等で発生した災害廃棄物を受け入れてセメント製造に活用するなど、重要な役割を果たしています。さらに、地球温暖化対策についても、「低炭素社会実行計画」の着実な推進とともに、日本経済団体連合会の提言を受けて昨年度取りまとめた「脱炭素社会を目指すセメント産業の長期ビジョン」に基づいて、内外の状況変化を踏まえつつ先導的に対策を進めなければ産業の将来はないとの決意を持って、イノベーションの促進を図り、ESG投資を進めることやSDGsを起点にした事業活動等に積極的に取り組んでまいります。
セメント協会といたしましては、こうしたセメント産業が担っている役割を広く国民の皆様にご理解いただくために、月刊誌の発行や週刊紙に広告を掲載するなど、積極的に情報発信を展開してきました。また、特に主婦層や小学生から大学生に至る若い世代に焦点を当て、セメント産業が国民生活に大きな役割を果たしていることをご理解いただけるようPRに努めてきました。こうした取り組みは継続が大事であり、今年度以降も引続き、広告および各界のオピニオンリーダーとの対談、現場の公開等を通して広く国民全体に向け強力に情報発信してまいります。
新型コロナウイルス感染症の影響は、経済規模だけではなく、経済活動や生活様式、価値観等に非連続な変化をもたらす可能性もあり、私どもセメント業界は、現在認識している課題の他、新たな変化にもスピード感をもって対応していくことが益々強く求められます。取り組みにあたっては、当事者一人ひとりがコンプライアンスの徹底を念頭に置きつつ、長期的視点を持って柔軟に対応していくことが前提となります。セメント産業が果たすべき使命の重大性、重要性を改めて認識し、与えられた責務を果たしていきたいと考えております。
微力ではありますが、関係各位のご支援とご協力を仰ぎつつ、セメント産業を取り巻く課題に一つずつ取り組んでまいりますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。
2020年5月28日
一般社団法人セメント協会 会長 小野 直樹
(三菱マテリアル株式会社 執行役社長)