「寒中コンクリート」
気温が低くなると、コンクリートが固まるのが遅くなったり、凍結したりして耐久性が低下します。そのため、日平均温度4℃以下になると予想される場合は、次のような対策を施し、「寒中コンクリート」として扱います。
- ・セメント以外の材料を暖めてコンクリートの温度を高める
- ・凍結への抵抗性を増す微細な空気を混入する混和剤(AE剤)を使用する
- ・所要の強度が得られるまでの保温養生を行う など
セメントは、そのほとんどがコンクリートとして使用されています。コンクリートは、下の図のようにセメント、水、細骨材、粗骨材、混和材料から構成されます。これらをコンクリート中に占める体積でみると、もっとも多いのが粗骨材で、次いで細骨材、水、セメント、混和材料の順になります。
コンクリートの構成 |
セメントの使われ方 |
このほかにセメントの使い方として、セメントペーストとモルタルがあります。セメントを水で練混ぜたものがセメントペースト、これに砂(細骨材)を練混ぜたものがモルタルです。
コンクリートの固まった時点で、強度など所要の品質を確保するために、コンクリート工事では、使用材料の選定、材料の使用割合(「配合」あるいは「調合」という)の決定、コンクリートの練混ぜ、運搬、打込み(「打設」という)、養生などの各工程ごとに工夫が必要です。
また、所要の形状に正確に、かつ均一にできあがる必要があります。そのためには、打設しようとするコンクリートが、その方法に適した「作業性をもった軟らかさ」である必要があります。コンクリートが硬過ぎれば、隅々まで行き渡らせるのに手間がかかったり、型枠面や鉄筋の混んでいる部分に空洞が残って(型枠をはずしたときに、コンクリートの表面に和菓子の「豆板」のような形の部分ができる場合があり、これを「豆板」あるいは「ジャンカ」と呼んでいる)しまい弱点をつくってしまいます。反面、軟らか過ぎれば粗骨材が沈んでしまったり、余った水が表面にたくさん浮いてきたりして、やはり不均一なものとなります。したがって、使用する条件に応じた適度な軟らかさのものをつくることが重要です。
工場で製造される「生コンクリート(レディーミクストコンクリート)」を建築物、橋梁、舗装、防護柵などに使用する場合や、製品工場でブロック、ポールやパネルなどの「コンクリート製品」に加工して使用される場合などがあります。
コンクリートには、「自由な形のものが作れる」、「耐火的である」、「耐久性に富む」、「圧縮に対する抵抗性が大きい」など、多くの利点があります。
一方、「引張りに対する抵抗性が小さい」、「質量が大きい(利点として利用する場合もある)」、「十分な強度が得られるまで時間かかかる」などの短所もあり、それらを補うための様々な工夫が施されています。なかでも引張に対する抵抗性が小さいことに対しては、鉄筋と複合して使用することで、圧縮に対してはコンクリートが、引っ張る力に対しては鉄筋がそれぞれ抵抗するようにして使われています。これが「鉄筋コンクリート」です。一般的に広く建築・土木構造物に使用されています。また、鉄筋を使用しないコンクリートは「無筋コンクリート」といいます。
以下に様々な種類のコンクリートをご紹介します。コンクリートを使う目的・場所・時期など、さまざまな条件に応じて、使うべき種類を検討して下さい。
建築構造物用コンクリート(比較的小さな断面の所に使うため柔らかく練ったもの)と土木構造物用コンクリート(硬めに練ったもの)に適用されます。「普通コンクリート」ともいいます。
通常、ミキサで練混ぜたばかりのコンクリートは、その軟らかさの程度をスランプ試験によって確認します。
スランプ試験 |
一般構造用コンクリート |
気温が低くなると、コンクリートが固まるのが遅くなったり、凍結したりして耐久性が低下します。そのため、日平均温度4℃以下になると予想される場合は、次のような対策を施し、「寒中コンクリート」として扱います。
気温が高くなると、コンクリートが硬くなったり、コンクリートが固まるのが速くなったり、水分が急速に蒸発して耐久性が低下する等の悪影響が出ます。そのため、日平均温度25℃を超えることが予想される場合には、次のような対策を施し、「暑中コンクリート」として扱います。
大型構造物や断面寸法が大きい(部材最小寸法が80cm以上)構造物に用いるコンクリートです。
ダム、橋脚など
流動化させる混和剤(流動化剤)を混合することによって、単位水量、単位セメント量を変えずに施工をし易くするコンクリートです。
高層ビル、プレキャスト工場製品など
流動化コンクリートより流動性を著しく改善し、コンクリートを型枠へ打ち込む時の振動締固め作業を不要にしたコンクリートで、「締固め不要コンクリート」、「自己充填コンクリート」ともいいます。
主塔に高流動コンクリートを使用した秩父公園橋
高層ビル、大型構造物など
通常のコンクリートより強度が高いコンクリートです。
主塔に高強度コンクリートを使用した青森ベイブリッジ
橋梁、高層ビル、プレキャスト工場製品など
発熱を低減し、温度応力によるひび割れを抑制するコンクリートです。
高層ビル、大型構造物など
乾燥収縮によるひび割れを低減するために、膨張材を混入したコンクリートです。
建築物の床や壁、コンクリート製品、漏水防止用など
コンクリートは、引張りに対する抵抗力が小さいため、コンクリート構造物の引張りが生じる部分にひび割れが発生し易くなります。そのため、PC鋼線などを使用してその部分にあらかじめ圧縮力を導入したコンクリートです。
プレストレストコンクリートの枕木
パイル、ポール、長大橋、建築物の梁など
乾燥収縮によるひび割れを低減するために、収縮低減剤を混入したコンクリートです。
厚さが薄い部材、壁、スラブなど
引張りに対する抵抗性、曲げに対する抵抗性、ねばりなどを改善するために、鋼繊維やガラス繊維などを混入したコンクリートです。
炭素の長繊維 |
ガラス繊維補強モルタルでつくった造形 |
トンネル覆工、コンクリート製品、プレキャスト部材など
引張りに対する抵抗性、曲げに対する抵抗性、伸び能力、防水性を改善するために、合成高分子材料(ポリマー)をセメントの一部またはセメントの代わりに用いたコンクリートです。
防水ライニング、パイプ、U字溝など
圧力水が作用するような、特に水密性(水の浸入や透過に対する抵抗性)を要求されるコンクリートに使用されます。
水槽、プール、地下水などの圧力水が作用する箇所
水中で施工する場合に使用するコンクリ-トです。
海中の橋脚基礎、護岸、防波堤など
粒度を限定した粗骨材とセメントペーストを練り混ぜたコンクリートです。
連続した空隙が存在し、水や空気が通り易くなっています。
道路の舗装、街路樹の根固め、貯水桝など
コンクリート表面に樹脂を含浸させて、緻密さを高めたコンクリートです。
外部からの塩分などの浸入を低減できます。
凍結融解や塩害、アルカリ骨材反応による補修及び劣化防止、地下構造物などの止水や防水など
原子力発電所、アイソトープ貯蔵所、医療用照射室などから逸散する放射線を遮へいする目的で適用されるコンクリートです。磁鉄鉱などの比重が大きい骨材を使用します。
原子力発電所には遮へい用コンクリートが使われている
原子力発電、アイソトープ貯蔵庫、医療用照射室など
コンクリートを軽量化するために、軽量骨材を用いるか多量の気泡を混入または発生させたコンクリートです。ここで、後者のコンクリートを気泡・発泡コンクリートともいいます。
軽量骨材を使用した高層建築物
鉄骨造の壁、床、屋根材、外壁、間仕切りなど
型枠の中にあらかじめ粗骨材を投入しておき、この間隙にモルタルを注入して造るコンクリートです。
水中コンクリート工事、放射線遮へいコンクリート工事などの複雑な箇所で、通常のコンクリートで施工が困難な場合
モルタルまたはコンクリートを圧縮した空気によって吹付けるコンクリートです。
のり面吹付けコンクリート
トンネルの一次覆工、ライニングなど
省資源と資源のリサイクルをはかるために、解体時のコンクリート塊を砕いて使った再生骨材を使用したコンクリートです。
裏込めコンクリート、均しコンクリートなど
コンクリート舗装は、表面積が大きく乾燥によるひび割れを低減させ、また排水勾配を設ける必要があるため、土木構造物用コンクリートより単位水量を少なくした、硬練りのコンクリートを用います。さらに単位水量を少なくして「超硬練り」としたものが、転圧コンクリートです。
単位水量が少なく非常に硬練りのコンクリートです。
転圧コンクリート工法によるダム、転圧コンクリート舗装、即時脱型方式による製品など
ダムコンクリートは、非常に大量のコンクリートを打込み、マスコンクリートとなるので、十分な水密性や耐久性を確保するため、温度ひび割れを防止するよう、温度制御対策(水和熱の小さいセメントの選定・単位セメント量の低減など)が必要です。
コンクリートの製造設備が整備された工場または建設現場に設置された仮設工場で、練りまぜ、打設、養生までを一貫して行い、完成品として建設現場に運べるようにしたコンクリートです。
プレキャスト製品による河川の親水護岸
まくら木、ブロック、防護柵、建物の壁など
生コンクリート製造プラント
一般の工事用のコンクリートは、生コン工場(レディーミクストコンクリート《Ready-mixed Concrete》工場)で作られますが、海洋工事用などのコンクリートは、製造設備を搭載したミキサ船で、またダム工事用は専用の製造設備でつくられます。
コンクリートの製造設備は、各材料の貯蔵設備、計量機、ミキサおよびこれらの制御装置で構成され、生コンの場合は、運搬車(生コン車、正しくは『アジテータ車』)で工事現場へ届けられます。
生コンのできるまで
フレッシュコンクリートのことを指す場合もありますが、通常の工事では、固定されたプラントで生コンクリートの製造を行う会社、あるいはその商品であるコンクリートを指します。
生コンのJIS規格は(1)適用範囲、(2)種類、(3)品質、(4)容積、(5)配合、(6)材料、(7)製造方法、(8)試験方法、(9)検査方法、(10)製品の呼び方、(11)報告、等について詳しく規定しています。
構造物として公共の場に使用されているコンクリートは人目につきやすく、景観材料として重要な役割を担っています。最近では構造やデザイン、表面仕上げに工夫をこらし、周辺環境との調和や構造物そのものの美しさを追求したコンクリートがたくさんつくられています。
公園と調和した道路橋
コンクリートはセメント・骨材・水の組合せでさまざまな空げきを設けることができます。この空げきに植物の育成に必要な土壌や肥料、場合によっては保水材や種子を充てんします。植物は空げき部分に根をおろしていき、土壌中と同じように育成して緑化が可能となります。緑化コンクリートは、河川の護岸、道路のり面の防災と環境保全などに使われています。
河川護岸での緑化コンクリートの試験施工(茨城県那賀川)
遮音壁は、音を遮断し音の回折により減音を図る目的で設置されます。遮音壁は、反射型と吸音型に分類されますが、道路の両側に設置する場合は、少なくとも片方は吸音型とする必要があります。コンクリートを多孔質にすることによって、吸音性能を持たせることができます。
吸音コンクリートは、耐水性・耐火性・耐候性・耐衝撃性に優れています。
多孔質なポーラスコンクリートとした舗装です。雨天でも表面に水がとどまることなく、ハイドロプレーニング現象のない快適な走行性が特長です。また、路面とタイヤとの間で圧縮された空気によって生じる騒音を低減でき、反射音も軽減できます。コンクリートは、配合を工夫することによってこれらの要求に応えることができます。
排水性コンクリート舗装の表面
川や池、湖沼などの水域では、水質汚濁に対する自然の浄化能力があります。ところが、これらの水域にたとえばコンクリート三面張りの護岸を設置すると、この自然の浄化能力は失われることが指摘され、生態系保全の意味からもコンクリートを使うべきでないという議論があります。
そこでコンクリートを多孔質にすることによって微生物のすみかを確保し、自然の浄化能力を保全する目的で開発されたのが水質浄化コンクリートです。
酸化チタンという物質に光触媒機能があることが知られています。これは、酸化チタンに太陽光に含まれる紫外線があたると、その表面に活性酸素が生じる現象です。大気浄化コンクリートは、この光触媒機能を利用したコンクリートで、コンクリート表面に設けた酸化チタン含有層により大気中の窒素酸化物を除去します。歩道用インターロッキングブロックやコンクリート平板が商品化されています。
今後防音板や擁壁など窒素酸化物の発生源に近い道路用製品への展開が期待されています。
大気浄化機能を持つコンクリートブロック舗装