セメントは、コンクリートを作るための材料の一つで灰色の粉末です。英和辞典によれば、名詞の項に「セメント、洋灰Portland cement、セメントのような接着剤、硬化材、結合、友情などのきずな」、動詞の項に「セメントを塗る、セメントで固める、接合する、堅く結びつける」などとあります。「ポルトランドセメント(Portland cement)」は、その固まったものの色や硬さがイギリスのポルトランド岬から産出される建築材『ポルトランドストーン』によく似ていることから、ポルトランドセメントとの記述も見られます。
セメント
セメントの構成
クリンカの原料は、石灰石類、粘土類、けい石類、鉄原料(銅からみ、硫化鉄鉱からみ等)に分類されます。これらの原料のほとんどは国内で入手でき、とくに一番多量に使う石灰石は国産100%です。粘土類としては、酸化アルミニウム、二酸化けい素(「シリカ」ともいう)の含有量の多いけい酸質の粘土やけつ岩などが使用され、製鉄所で銑鉄をつくるときに副産物として出る高炉スラグ、火力発電所で微粉炭を燃焼したあとの灰分であるフライアッシュなども粘土類の原料として使用されます。
セメントの中間製品「クリンカ」
セメントの主原料「石灰石」
せっこうはセメントの硬化速度を調整するためのもので、火力発電所などの排煙脱硫で発生する排脱せっこうや、いろいろな化学工業から発生する副産せっこうが使用されます。
「混合材」は高炉スラグ、シリカ質混合材、およびフライアッシュが規定されており、混合セメントを製造するときに使用されます。「少量混合成分」は高炉スラグ、シリカ質混合材、フライアッシュ、および石灰石の4種類が規定されており、主にボルトランドセメントを製造するときに使用される。JISR5210「ボルトランドセメント」では、普通、早強および超早強ボルトランドセメントにおいて、セメントの質量の10%まで混合することが認められています。
セメントの製造工程は、クリンカを製造する工程とクリンカにせっこう、混合材ならびに少量混合成分を加えセメントに仕上げる工程(「仕上げ工程」)からなります。クリンカを製造する工程は「原料(粉砕)工程」と「(クリンカ)焼成工程」からなります。
ポルトランドセメントの製造工程
石灰石類、粘土類、けい石類、鉄原料等を所定の化学組成となるよう調合します。調合した原料は、「原料粉砕機」(『原料ミル』ともいう)で乾燥され細かく粉砕します。。この工程を「原料(粉砕)工程」といい、粉砕されたものを「調合原料」と呼びます。この工程はセメントの成分を大きく左右するので、各原料ならびに調合原料を蛍光X線分析装置により迅速な成分チェックを行い、厳重な調合管理が必要となります。
原料(粉砕)工程で得られた調合原料を焼成してクリンカにする工程を「(クリンカ)焼成工程」といいます。上の図中の焼成工程は調合原料がクリンカとなる過程を示したものです。クリンカの焼成は、セメント製造の中心的な工程で、回転窯(『ロータリーキルン』あるいは単に『キルン』ともいう)で行います。セメント工場では、焼成効率を向上させるために、調合原料を直接回転窯に送り込むのではなく、予熱装置(プレヒーター)を通過させてから送り込む方式を採用しているのが一般的です。
回転窯の内部
仕上げ工程はできあがったクリンカにせっこう、混合材および少量混合成分を加えセメントに仕上げる工程です。粉砕に使う粉砕装置は、仕上げ粉砕機(『仕上げミル』ともいう)と呼ばれ、円筒状のドラムの中の鋼鉄のボールをドラムの回転によって互いに衝突させ、ボールとポールの間にはさまれたものを粉砕する機構となってます。粉砕機を通過した粉は「エアーセパレータ」という分級機で粗粉と微粉に分けられ、粗粉は再び粉砕機に戻します。微粉は所定の細かさをもつ完成したセメントとして取り出します。
仕上げミル
仕上げ工程の一例(ポルトランドセメント)
セメントに水を加えて、よく練り混ぜてから放置すると、初めは粘土のように形を変えることができますが、時間が経過するに従い徐々に硬くなって変形させることができなくなり、さらに時間が経過すると強固な固まりになります。これはセメントを構成する化合物が水と反応して「新しい化合物」になるからです。このセメントと水との化学反応を「水和反応」といい、この「新しい化合物」を「水和物」と呼びます。詳しく言えば、徐々に硬くなって変形できなくなる過程を「凝結」といい、固まりがさらに強固なものになる過程を「硬化」といいます。水がセメントと反応して「水和物」を生成する過程の概念を下の図に示します。水和反応は水と直接接するセメント粒子の表面から開始し、反応が進行するに従い未反応の部分が小さくなり、セメント粒子が生成した水和物で覆われ、水和物が結び付いて硬化していく様子が表現されています。
ポルトランドセメントの水和過程
セメントは日本産業規格(JIS)で品質が規定されている「ポルトランドセメント」「混合セメント(高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント)」、「エコセメント」と、「それ以外のセメント」に大別されます。なお、「それ以外のセメント」の分類のしかたは種々考えられますが、下の表では「特殊なセメント」および「セメント系固化材」に分類しています。
セメントの分類
汎用性がもっとも高いセメントです。袋物の入手も容易なことから、小規模工事や左官用モルタルとしても使われています。現在、国内で使用されるセメントの72.1%(2024年度)がこのセメントです。
初期強度の発現性に優れる化合物の含有率を高め、水と接触する面積を多くするために普通ポルトランドセメントより細かく砕いて、短期間で高い強度を発現するようにしたセメントです。普通ポルトランドセメントが材齢3日で発揮する強さを1日で、また、材齢7日で発現する強さを3日で達成します。この特性を利用して、緊急工事、寒冷期の工事、コンクリート製品などに使用されます。
早強ポルトランドセメントよりも、さらに短期間で強度を発現するセメントです。普通ポルトランドセメントが7日で発現する強さを1日で発揮するセメントです。用途は緊急補修用などです。
大型構造物や断面寸法の大きな構造体(マスコンクリート)用の水和熱を低いセメントです。水和熱が低いだけでなく、①乾燥収縮が小さい、②硫酸塩に対する抵抗性が大きいなどの特徴があり、ダムや大規模な橋脚工事などに使われます。
中庸熱ポルトランドセメントより水和熱が低いセメントです。材齢初期の圧縮強さは低いですが、長期において強さを発現する特性をもちます。温度抑制はもちろんですが、高流動コンクリート、高強度コンクリートにも対応するセメントです。
セメント中のアルミネート相(C3A)から主に生成する水和物(モノサルフエート水和物)は硬化後に浸透した硫酸塩と反応し、膨張性の水和物(エトリンガイト)に変化することがあります。そのため、海水、温泉地付近の土壌、下水・工場の廃水中など硫酸塩を多く含む環境ではアルミネート相(C3A)の含有量が少ないセメントが使用されます。耐硫酸塩性に優れたセメントです。
高炉セメントは高炉スラグ(「水砕スラグ」と呼ばれることもある)を混合材とするセメントです。高炉スラグはセメントの水和反応で生じた水酸化カルシウムCa(OH)2を刺激剤として徐々に水和反応を起こす性質(潜在水硬性)をもっています。高炉セメントの強度特性は、普通ポルトランドセメントに比べて初期は低いですが、材齢28日以降では普通ポルトランドセメントと同等または同等以上になります。特徴として、①塩分の浸透に対する抵抗性に優れている、②硬化組織が織密である、などが挙げられます。
火力発電所のボイラー排ガス中に含まれる石炭灰の微粉末であるフライアッシュを混合材に用いたセメントです。フライアッシュに含まれている二酸化けい素Si02は、セメントの水和反応によって生じた水酸化カルシウムCa(OH)2と反応して水和物(けい酸カルシウム水和物)を生成し(この反応を『ポゾラン反応』という)、硬化組織が繊密となります。ポゾラン反応はゆっくり進むため、初期の水和による発熱は小さいです。これらの性質からダムや港湾などの大型土木工事や水密性を要求される構造物のコンクリートに使用されることが多いです。
廃棄物問題の解決を目指して研究開発されたセメントで、都市ごみ焼却灰や下水汚泥を主原料としています。このセメントは、都市ごみ焼却灰をベースに、必要に応じて下水汚泥などの廃棄物も加えて、製品1tにつき乾燥ベースで500kg以上使用してつくられます。普通エコセメントは、普通ポルトランドセメントとほぼ同様な物理的性質を示し、幅広い用途拡大が期待されています。
特殊なセメントはJIS R 5210(ポルトランドセメント)で規定されている品質以外の品質が要求される場合に使用されるセメントといえます。
特殊なセメントの種類
セメントは、水と接すると水酸化カルシウムを生じるため、アルカリ性を示します。そのために、目・鼻や皮膚に対して刺激性があり、長時間付着した状態が続くと、角膜、鼻の粘膜や皮膚に炎症を起こす可能性があります。したがって、セメントを取扱うときには、目・鼻や皮膚へのセメントの接触を避けるための適切な保護具(手袋、長靴、保護メガネ、防護マスクなど)を着用したり、換気する必要があります。また、取扱い後には顔、手、口などを水洗することをおすすめします。硬化したモルタルやコンクリートでは、皮膚と接触しても炎症を起こすことはありません。その理由は、通常、モルタル、コンクリートの表層の微細な空げきに存在する水酸化カルシウムは空気中の炭酸ガスと反応して、中性の炭酸カルシウムになっているからです。
セメントは、平均粒径が10μm程度の微粉末なので、混合や散布のときに発塵しやすくなります。そこで、セメントを多量に扱ったり発塵の可能性がある場所には、密閉するためのカバーや集塵機の設置をおすすめします。発塵環境下で長時間作業して多量のセメントを吸引すると、塵肺になる可能性もあります。したがって、発塵が予想される環境下では、防塵対策を施してから作業してください。
セメントの原料(石灰石、粘土、けい石)や燃料の大半は地殻に存在する天然資源です。表から推測できるように、セメントには主構成元素のほかに微量元素も含まれており、これを避けることは不可能です。セメントと水を練り混ぜた場合、これらの微量成分の中で六価クロム(Cr6+)を除く成分は、アルカリ性の水溶液中で水酸化物として沈殿したり、溶解度のきわめて小さい化合物になったり、セメント水和物中に固定されるため、ほとんど溶出しません。六価クロムはアルカリ領域で陰イオン(CrO42-)として挙動します。
そのため、セメントを利用する設備の洗浄水などには、六価クロムイオンが検出される可能性があります。その濃度は、水質汚濁防止法で規制されている排水施設からの排出基準である0.5mg/l に達していることも起こり得ます。万一、規準を上回る場合は還元剤を添加するなどの処理をして排出する必要があります。
硬化コンクリートを20mm以下に砕き、pHを調整した水に入れて6時間連続振とうさせる方法で六価クロムを溶出させた試験結果の一例を図に示します。図からわかるように、溶出がきわめて生じやすい条件下でも、硬化したコンクリートやモルタルからの六価クロム溶出量は、上水道の水質基準と同一規制値である環境基準値以下なので、環境への影響はないといえます。なお、セメント中の六価クロムに過敏な体質の人が直接触れると、皮膚にアレルギーを発生させることもあるといわれています。
セメント業界ではセメント生産時の自主規制値(水溶性六価クロム量で20mg/kgを上限値とする)を定めるとともに、引き続きその低減対策に取り組んでいます。セメントやコンクリートは、常識的な取扱いと管理をしていれば、人体にも地球環境にも安全な製品です。セメント産業はこれからも広範な分野から排出される多種多様の廃棄物を、工夫をこらして無害化処理しながら、さらにすばらしい性能の製品を製造していきます。
地殻の岩石における元素の平均含有量(mg/kg)
硬化コンクリートからの六価クロム溶出試験結果(セメント協会調査)
(一社)セメント協会は1998年9月に「セメント中の水溶性六価クロム含有量に関するガイドライン」を定め、会員各社は品質管理に努めてきたところですが、品質管理方法をより明確にするため、この度、ガイドラインを改訂致しました。
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ガイドライン改訂内容 ① (2)項を追加し、工場におけるセメント中の水溶性六価クロム含有量の管理方法を規定した。 ② (3)項を追加し、セメント中の水溶性六価クロム含有量の測定方法を明確にした。 |